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東京地方裁判所 平成3年(ワ)9816号 判決

原告

甲野緑

救援連絡センター

右代表者代行

山中幸男

右原告両名訴訟代理人弁護士

山下幸夫

被告

右代表者法務大臣

三ケ月章

右指定代理人

開山憲一

外一名

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

細谷光廣

外三名

被告

津田辰興

小山邦廣

田中良明

右被告ら三名訴訟代理人弁護士

山下卯吉

高橋勝徳

福田恆二

金井正人

主文

一  原告救援連絡センターの訴えを却下する。

二  被告東京都は、原告甲野緑に対して、金二万円及びこれに対する昭和六三年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告甲野緑の被告東京都に対するその余の請求並びに被告国、同津田辰興、同小山邦廣及び同田中良明に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分し、その五を原告救援連絡センターの負担とし、その四を原告甲野緑の負担とし、その余を被告東京都の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告甲野緑に対し、連帯して、金一〇〇万円及びこれに対する昭和六三年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告救援連絡センターに対し、連帯して、金二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告東京都、同津田辰興、同小山邦廣及び同田中良明(以下「被告東京都ら」という。)

(一) 本案前の申立

(1) 原告救援連絡センターの訴えを却下する。

(2) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

(二) 本案の答弁

(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

(3) 担保を条件とする仮執行の免脱宣言

2  被告国

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

(三) 担保を条件とする仮執行の免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告ら

原告甲野緑(以下「原告甲野」という。)は、昭和四五年以来、原告救援連絡センター(以下「原告救援センター」という。)の事務局員として、各種の救援活動を行っている者である。

原告救援センターは、昭和四四年三月に設立され、各種救援組織、弁護団、被告団の連絡センターの役割を果たすとともに、思想・信条の別を問わず、全ての逮捕者に対する適切な法律的援助を行うことを目的とした法人格なき運動団体である。その代表者は庄司宏であったが、平成三年一〇月五日に死亡した。現在、原告救援センターの代表者は不在であるが、原告救援センターの事務局長である訴外山中幸男(以下「山中」という。)が代表者代行として、代表者としての職務を行っている。

(二) 被告ら

被告津田辰興(以下「被告津田」という。)及び同田中良明(以下「被告田中」という。)は、昭和六三年当時警視庁愛宕警察署(以下「愛宕署」という。)の警察官であり、同小山邦廣(以下「被告小山」という。)は、右当時警視庁公安部の警察官であった。

2  本件逮捕及び本件捜索差押の経過

(一) 愛宕署所属の司法警察員は、昭和六三年七月一九日、疎明資料を添付の上、東京簡易裁判所裁判官に対し、原告甲野に対する有印私文書偽造・同行使被疑事件(以下「本件第一被疑事件」という。)について、同原告に対する逮捕状を請求するとともに、捜索すべき場所をそれぞれ「東京都港区新橋二丁目八番一六号石田ビル四階救援連絡センター内甲野緑(旧姓乙野緑・ペンネーム小野京子)並びに中核派構成員が使用する机、ロッカー及び事務局員が共同使用する場所」(以下「原告救援センター内原告甲野等の使用場所」という。)及び「東京都墨田区〈番地略〉大村園江名義の居室」(以下「原告甲野宅」という。)とする捜索差押許可状二通の発布を請求し、右請求を受けた同裁判所裁判官は右逮捕状(以下「本件逮捕状」という。)及び右捜索差押許可状二通(以下、原告救援センター内原告甲野等の使用場所を捜索すべき場所とする捜索差押許可状を「本件第一捜索差押許可状(一)」といい、原告甲野宅を捜索すべき場所とする捜索差押許可状を「本件第一捜索差押許可状(二)」という)。)をそれぞれ発布した。

(二) これより先、愛宕署所属の司法警察員は、昭和六三年七月一四日、疎明資料を添付の上、東京簡易裁判所裁判官に対し、被疑者不詳に対する火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反及び建造物等以外放火被疑事件(以下「本件第二被疑事件」といい、これと第一被疑事件とを併せ呼ぶ場合には「本件両事件」という。)について、捜索すべき場所を原告甲野宅とする捜索差押許可状の発布を請求するとともに、同月一九日、「東京都港区新橋二丁目八番一六号石田ビル四階救援連絡センター」を捜索すべき場所とする捜索差押許可状の発布を請求し、右各請求を受けた同裁判所裁判官は右捜索差押許可状二通(以下、原告救援センターを捜索すべき場所とする捜索差押許可状を「本件第二捜索差押許可状(一)」といい、原告甲野宅を捜索すべき場所とする捜索差押許可状を「本件第二捜索差押許可状(二)」という。)をそれぞれ発布した。

(三) 被告津田らは、昭和六三年七月二〇日、原告甲野宅を捜索し、第一被疑事件につき、別紙五の押収品目録(一)記載の物品(以下「本件第一押収物」という。)を差し押え、第二被疑事件につき、同押収品目録(二)の物品(以下「本件第二押収物」という。)を差し押えた(以下、便宜上「本件第一捜索差押」という。)。

また、同日午後三時四五分に原告甲野を本件逮捕状にて通常逮捕した(以下「本件逮捕」という。)。

(四) 被告田中及び被告小山らは、同日、原告救援センターを捜索し、被告田中は、第一被疑事件につき、別紙五押収品目録(三)記載の物品(以下「本件第三押収物」という。)を差し押え、被告小山は、第二被疑事件につき、同押収品目録(四)記載の物品(以下「本件第四押収物」という。)を差し押えた(以下、便宜上「本件第二捜索差押」といい、本件第一捜索差押と併せて「本件捜索差押」という。)。

(五) 原告甲野は、同日から警視庁本部留置場において留置され、同月二二日午後四時八分、処分保留のまま釈放された。

(六) その後、本件第一及び第三押収物のすべて、並びに第四押収物のうち一、四、五、六、九、一〇及び一三の物品は平成元年二月六日までに原告甲野らに還付されたが、その余の物品は差し押えられたままである。

3  本件逮捕状及び本件各捜索差押許可状の請求行為についての違法性

憲法三四条によれば何人も「正当な理由」がなければ拘禁されず、憲法三五条によれば何人も「正当な理由」がなければ捜索差押を受けないと規定されている。

しかるに、第一被疑事件が、原告甲野及び原告救援センターに対する情報収集及び弾圧を目的として捜索を行うためにデッチ上げられたものであって事実無根であり、少なくとも可罰的違法性を欠く行為であったにもかかわらず、愛宕署所属の司法警察員は、正当な理由なく、本件逮捕状を請求するとともに、本件第一捜索差押許可状を請求し、また第二被疑事件については、同事件と原告甲野及び原告救援センターとの関連性は全くなく、同事件と差し押えるべき物についても全く関連性を認めることができないにもかかわらず、これを認識しながら本件第二捜索差押許可状を請求したのであって、各令状請求は違憲・違法になされたものである。

4  本件各令状発布行為の違法性

(一) 第一被疑事件

本件逮捕状及び本件第一捜索差押許可状の発布行為は、右3記載の理由により違法である。とくに、本件第一捜索差押許可状に関し、「同窓生名簿」を差し押えるべき物と判断した裁判は、第一被疑事実と関連性のありえない物を差し押えるべき物と判断したのであり、「正当な理由」を要求する憲法三五条に反するのであって、違憲・違法である。

(二) 第二被疑事件

本件第二捜索差押許可状の発布行為は、以下の理由により違憲・違法である。

(1) 刑事訴訟法二二二条・一〇二条二項によれば、被疑者以外の者の身体や住居等に対する捜索差押は「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」に限って許されているところ、原告救援センターは原告甲野の勤務先にすぎず、また被疑者不詳のゲリラ事件である第二被疑事件と原告連絡センターにつき関係がある証拠は全くなく、したがって押収すべき物の存在を認めるに足りる状況はなかったのであるから、本件第二捜索差押許可の裁判は、憲法三五条及び刑事訴訟法一〇二条二項に反するものである。

(2) また、刑事訴訟法二二二条・一〇五条によれば、弁護士が業務上委託を受けたために保管、所持する物で他人の秘密に関する物につき押収拒絶権を認めているところ、原告救援センターは、各種救援組織、弁護団、被告団の連絡センターの役割を果たすとともに、逮捕者に対する適切な法律的援助を行うことを業務内容としており、そのために弁護士が常時出入りしたり連絡を取り合っており、また弁護士が受任している事件についての記録等が保管されているのであるから、右刑事訴訟法一〇五条の趣旨に準ずれば、原告救援センターのような組織に対する捜索差押を許可すること自体差し控えるべきであり、本件第二捜索差押許可の裁判は、刑事訴訟法一〇五条の趣旨に反し違法である。

(3) 特に「機関紙」について第二被疑事件との関連性を認めて差し押えるべき物と判断した裁判は、機関紙が特定の書店等において誰でも入手可能なものであり、その機関紙の所持が直ちにその発行団体と特別な関係にあることを意味するものではなく、また、特定の犯罪に関する差押につき、何らの限定なく機関紙類の差押を認めることは憲法二一条の表現の自由を侵害し、正当な理由を必要とする憲法三五条に反するのであって、違憲・違法である。

5  本件逮捕及び本件各捜索差押の違法性

(一) 本件逮捕の違法性

本件逮捕は、正当な理由なく行われたものであり、違法である。

(二) 本件各捜索差押の違法性

(1) 執行方法(捜索)の違法性

ア 電話の発受信禁止の違法性

捜索の付随処分として、電話の発受信を一律に禁止する法的根拠はないにもかかわらず、原告救援センターにおける本件第二捜索差押の際、被告田中、同小山ら被告東京都の警察官は、電話の発受信を全面的に禁止し、発信したり、多数かかってくる電話を受信することを強制力をもって阻止した。すなわち、(a)原告救援センター内にいた訴外伊藤令子は、電話で外部に連絡しようとしたところ、近くにいた警察官数名により手首を掴まれて電話のボタンを押させないように制止されたり、受話器をもつとフックを押して電話を切られたり、電話機を遠ざけて警察官の壁をつくるなどして電話の発信を妨害され、(b)伊藤令子がかかってきた電話を取ろうとすると、警察官によりその手を掴まれて妨害されたり、電話を勝手に切られたり、電話機を遠ざけられたりして、電話の受信を妨害された。

イ 立会妨害の違法性

刑事訴訟法二二二条一項・一一四条二項は、捜索許可状の執行の際には「住居主若しくは看守者又はこれらの者に代るべき者」を立ち会わせなければならないと規定している。

しかるに、右ア記載のとおり、電話の発信を妨害されたために、伊藤令子は、原告救援センターの当時代表者であり、かつ代表弁護士であった庄司宏及び原告救援センター所在の部屋の賃借名義人である弁護士葉山岳夫に立ち会わせるための連絡を取ることができず、そのため右両名を立会わせることができなかったのであり、執行を受ける者の押収拒絶権等の権利行使をするのにもっとも適切な者の立会いが認められなかったことは、右一一四条の趣旨に反し、違法である。

(2) 本件各差押の違法性

憲法三五条は、捜索差押に関し「正当な理由」に基づいて発せられた令状を要求しており、同条の求める正当な理由としての差押目的物と被疑事件との関連性については、その被疑事件につき「証拠物又は没収すべき物」と考えられる程度に密接なものでなければならないというべきであり、また、差押の必要性の有無についても厳しく判断されなければならない。多数の物件についての差押の必要性の判断が少数の物件についての判断を治癒したり、正当化したりするものでないことは当然である。

しかるに、本件で差し押えられた第一押収物の番号五及び第二押収物のすべては、いずれも当該被疑事件との関連性は認められないのであるから、本件差押は違法である。なお、原告らは、番号五を除く本件第一押収物については、被疑事実の嫌疑の点はさておき、被疑事実との関連性及び必要性については特に争わない。

また、押収品のうち原告らに還付された物以外については、現在まで差押が継続しているが、右継続自体が違法である。

6  被告東京都の責任

(一) 本件逮捕状及び本件各捜索差押許可状の請求をした警視庁愛宕署所属の司法警察員は、本件各令状請求について、その請求の理由がなく違法であることを知っていた。

また、仮に、右各令状請求が違法なものであることを知らなかったとしても、司法警察員としては、逮捕状及び捜索差押許可状の発布を請求するに当たり、適切に証拠を評価し、被疑事実の存在しない者を逮捕したり、関連性のない第三者の居宅を捜索して第三者のプライバシーの権利等を侵害することのないように慎重に判断する義務があるにもかかわらず、本件各令状請求をした司法警察員は、右義務を怠り、不確実な資料や憶測により、漫然と、被疑事実があり、かつ関連性があるものと軽信して、本件各令状を請求したのであるから、本件各令状請求をした司法警察員には重大な過失がある。

(二) 被告津田、同小山及び同田中は、本件逮捕及び本件各捜索差押が理由がなく、違法なものであることを知りながら、又は重大な過失によりこれを知らないで、本件各捜索差押を行った。

(三) 右(一)及び(二)の各行為は、いずれも、被告東京都の公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて行ったものであるから、被告東京都は原告らに与えた後記損害を賠償する義務がある。

7  被告国の責任

本件逮捕状及び本件各捜索差押許可状の発布が違法であることは前記4のとおりであり、また、右各令状を発布した東京簡易裁判所裁判官には、右各令状請求に逮捕の理由と必要性、捜索差押の理由と必要性があるかどうかについて、それぞれ慎重に審査し判断すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と本件各令状を発布した重大な過失がある。

右は、本件国の公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて行ったものであるから、被告国は、原告両名に与えた後記損害を賠償する義務がある。

8  被告津田、同小山及び同田中の責任

被告津田は本件逮捕及び本件第一捜索差押に際して、また被告小山及び同田中は本件第二捜索差押に際して、前記3及び5のとおり、それぞれ理由がなく違法なものであることを知りながら、または重大な過失によってこれを知らずに、本件逮捕及び本件各捜索差押を行った。

よって、被告津田、同小山及び同田中は、民法七〇九条により、原告両名に対して後記損害を賠償する義務がある。

9  損害

(一) 原告甲野は、いわれのない第一被疑事実により身柄を二日間にわたって拘束されたことによって、その身体の自由を侵害され、多大な肉体的及び精神的苦痛を被った。また、同原告が住居として使用していたアパートを捜索差押されるとともに、同原告の勤務先である原告救援センターにある同女の所持・管理していた物が差し押えられ、住居の平穏、その占有権、プライバシーの権利がそれぞれ侵害されたことにより、多大な精神的苦痛を被った。右の損害を慰謝するためには一〇〇万円を相当とする。

(二) 原告救援センターは、いわれのない容疑で捜索差押され、そのために一時その機能が停止させられ、さらに業務が妨害されるとともに、住居の平穏、その占有権が侵害され、同救援センターが管理する情報を収集されたことによりプライバシーの権利が侵害された。右の損害を慰謝するためには、少なくとも二〇〇万円を相当とする。

よって、原告らは、被告らに対して、連帯して、被告国及び同東京都に対しては国家賠償法一条一項による損害賠償請求権に基づき、また、被告津田、同小山及び同田中に対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告甲野については、金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六三年七月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告救援センターについては、金二〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六三年七月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  被告東京都らの本案前の申立

原告救援センターが、民事訴訟法第四六条が当事者能力を賦与する法人に非ざる社団に該当するためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理、その他団体としての主要な点が確定し、それに基づいて、組織としての活動が行われていることを要すべきところ、原告救援センターを同法四六条の規定する権利能力なき社団と認めるに足りる目的、組織、人員構成、運営、財産の管理等に関する規約、規則等は提出されておらず、右権利能力なき社団としての主要な点も明示されていないから、原告救援センターは権利能力なき社団に該当せず、当事者能力を有しない。

三  請求原因に対する被告東京都の答弁

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1について

(一) 同(一)のうち、原告甲野が原告救援センターの事務局員であること、原告救援センターが昭和四四年に設立された組織であり、法人格を有しないこと及びその代表者が庄司宏であったことは認め、その余は知らない。

(二) 同(二)は認める。

2 請求原因2について

(一) 同(一)は認める。

(二) 同(二)は認める。ただし、原告救援センターに関する捜索すべき場所についての正確な記載は「東京都港区新橋二丁目八番一六号石田ビル四階救援連絡センター内甲野緑(旧姓乙野緑・ペンネーム小野京子)並びに中核派構成員が使用する机、ロッカーおよび事務局員が共同使用する場所」である。

(三) 同(三)は認める。

(四) 同(四)は認める

(五) 同(五)は認める。

(六) 同(六)は認める。

3 請求原因3について

本件各令状請求が違憲・違法であることは否認する。

4 請求原因5について

(一) 同(一)は争う。

(二) 同(二)(1)アのうち、第二捜索差押にあたって、警視庁の警察官が立会人に対して電話の発受信を禁止したことは認め、右行為が違法であるとの主張は争う。

同(二)(1)イのうち、弁護士庄司宏が原告救援センターの代表者であり代表弁護士であったこと、弁護士葉山岳夫が原告救援センターが所在する部屋の賃貸借契約者であること及び原告救援センターにいた伊藤令子がいずれかに電話をかけようとしたのを禁止したことはいずれも認め、その余は知らない。

同(二)(2)のうち「憲法三五条は捜索差押に関し…判断されなければならない。」との主張は一般論として争わない。その余は否認する。

5 請求原因6について

否認する。

6 請求原因9について

否認する。ただし、警視庁の警察官が、第一被疑事実で原告甲野を逮捕し、同原告の身柄を二日間拘束したこと及び同原告が使用していた居室と同原告の勤務先である原告救援センターに対して捜索差押を実施したこと並びに第二被疑事実で原告甲野が使用していた居室と同原告の勤務先である原告救援センターに対し捜索差押を実施したことは認める。

(被告東京都の主張)

本件逮捕及び本件捜索差押は、以下に述べるとおりいずれも違法でないことが明らかである。

1 本件各令状請求に至る経緯

(一) 第二被疑事件について

(1) 事件の発生

警視庁新宿警察署(以下「新宿署」という。)は、昭和六三年二月二九日未明、東京都新宿区西新宿所在の駐車場で、成田空港関連業者所有のバス型車両四台が何者かによって時限式発火装置の作動により焼燬されるという事件の発生を認知した。

新宿署は右事件の捜査を開始したところ、革命的共産主義者同盟全国委員会(通称中核派と呼称されている。以下「中核派」という。)が、その機関紙「前進」やビラによって右事件の犯行を自認する表明をしたこと及び中核派が従来から成田空港建設阻止を唱えて多数のテロ、ゲリラ事件を敢行していたことから、右事件は中核派によって敢行されたものであると認めて捜査を進めた。

(2) 事件の特徴

警視庁では、第二被疑事件が中核派による組織的、計画的犯行であると認められたことから、管下各警察署において中核派に関する捜査を行った。すなわち、中核派は闘争方針として武装闘争を志向し、非合法かつ悪質巧妙化した手段、方法によるテロ・ゲリラ・内ゲバ事件等を敢行している集団であり、時限式発火装置を利用した犯罪を敢行する場合、「総インフ化」という言葉の下に、実行行為を担当する非公然部門の活動家以外にも、これに協力して、武器の製造開発ないし保管、連絡活動、情報提供、事前調査、資金及び物資の調達援助、居住ないし利用アジトの設定、証拠湮滅工作ないし闘争幇助等に多くの公然部門の構成員ないしシンパが加担するのが常であることから、広範囲な捜査を必要とした。

(二) 第一被疑事件

(1) 事件の発覚

愛宕署は、第二被疑事件の捜査の過程で、同署管内に所在する原告救援センターに中核派を代表して派遣され、その事務局に専従している原告甲野について捜査したところ、原告甲野が偽名を使って民間アパートに居住している事実を突き止めた。右偽名入居について捜査を進めた結果、原告甲野が昭和六三年二月二九日東京都墨田区○○所在の民間アパート三澤荘の室に入居する際の賃貸借契約書において、「大村園江」名義をもって賃借人となり、かつ「大村」と刻した印鑑を押捺するなど、自らを大村園江と称して右契約書を偽造したうえで、三澤荘の所有者三澤静江に対して、大村園江が偽名であることを告げずにこれを交付したという有印私文書偽造及び同行使という第一被疑事件が判明した。

(2) 事件の特徴

第一被疑事件は、以下の事実により、中核派によって組織的かつ計画的に行われたアジト設定のための犯行であると認められた。

① 愛宕署員は、右賃貸借契約書において、連帯保証人として松本尚子との名が記されていたことから、同女につき捜査したところ、中核派の構成員であることが判明した。

② 原告甲野は、三澤荘には昭和六一年三月以降居住しており、昭和六一年三月に入居する際の入居申込書にも大村園江名義を使い、松本尚子を保証人としていたほか、勤務先を「斉生会中央病院」と記していたが、それも虚偽であった。

③ 愛宕署が大村園江名義につき捜査したところ、松村園江という女性が、知人の伊藤道子から、伊藤道子自身がアパートに入居するので松村の旧姓である大村園江名義の使用を認めてほしいと懇願されたため、伊藤道子以外の者が使用しない等の条件で旧姓の使用に同意した経緯があったこと及び伊藤道子が中核派の構成員であることが判明した。

④ 中核派はゲリラ事件等の敢行のため、アジト作りを組織的かつ計画的に行っている。すなわち、組織の連絡活動、情報収集、各種調査及び資金調達等を行う拠点、あるいは武器の製造、保管及び研究開発の場所としてアジトは必要不可欠のものである。そして、アジト設定にあたっては、居住者ないし利用者が完全に秘匿される必要があるため、組織によって隠密裡に行われ、その手段として偽名が利用されることが少なくない。

⑤ 原告甲野は、昭和五三年一二月神奈川県警の中核派の拠点である前進社第二ビルに対する捜索の際、立会人になっていること、同原告の夫甲野太郎は専従職員として前進社に寄宿し、前進社に対する捜索にたびたび立会人となっているなど中核派の主要構成員であること、同原告は中核派の集会に参加することはもとより、長年にわたり原告救援センターに中核派の代表として派遣され、公然活動家として組織に貢献していること及び第一被疑事件は伊藤道子や松本尚子など中核派構成員の関与していること等から中核派の主要構成員であることが明らかである。

(三) 原告甲野宅に押収物が存在すると認められた理由

(1) 第一被疑事件について

原告甲野が二年四月にわたり偽名で潜伏していたこと及び前記のアジト設定等の目的から、原告甲野の偽名入居に中核派が組織的、計画的に関与していると強く疑われたことからすれば、原告甲野宅には第一被疑事件の動機、目的、手段方法、共犯関係または背後関係等を明らかにする証拠資料の存在する蓋然性が高いと認められた。

(2) 第二被疑事件について

同事件が中核派によって組織的、計画的に敢行され、多数の構成員ないしシンパが深く関与している疑いが強く、しかも原告甲野が中核派の主要構成員であることからすれば、原告甲野宅には第二被疑事件の動機、目的、手段方法、共犯関係または背後関係等を明らかにする証拠資料の存在する蓋然性が高いと認められた。

(四) 原告救援センターに押収物が存在すると認められた理由

本件両事件は、中核派によって組織的、計画的に敢行されたものであり、多数の構成員ないしシンパが関与していること、原告救援センターには中核派の主要構成員である原告甲野が専従しているほか、多数の中核派構成員ないしシンパが出入りしていること等からすれば、原告救援センターには本件両事件の動機、目的、手段方法、共犯関係または背後関係等を明らかにする証拠資料の存在する蓋然性が高いと認められた。

(五) 本件各捜索差押及び本件逮捕の必要性

愛宕署警備課長関昭夫警部(以下「関警備課長」という。)は、本件両事件の各被疑事実及び前記中核派の性格等に照らせば、原告救援センター及び原告甲野が関係資料を任意に提出することは到底期待できず、かつ原告甲野が任意同行に応ずるとも考えられず、裁判所の発布する捜索差押許可状及び逮捕状によって捜索差押及び逮捕を行わなければ、証拠資料が湮滅毀損され、あるいは原告甲野が逃走するおそれがあったことから、原告救援センター及び原告甲野宅に対する捜索差押を行い、かつ原告甲野を逮捕する必要があると判断した。

(六) 本件各令状の請求

(1) 関警備課長は、昭和六三年七月一四日、東京簡易裁判所裁判官に対し、第二被疑事件について、機関紙「前進」に記載された中核派の主義、方針と目される「総インフ化」についての捜査報告書等の疎明資料を添付したうえ、中核派が東京都新宿区内所在の駐車場に駐車中のバス型車両四台を時限式発火装置を用いて放火したとの別紙三のとおりの被疑事実によって、差し押えるべき物を、中核派による右犯行に関係あると認められる物を別紙四のとおり列挙して、捜索すべき場所を、原告甲野宅としたうえで、捜索差押許可状の発布を請求したところ、即日その発布を受けた。

(2) さらに、関警備課長は、同月一九日、同裁判所裁判官に対し、第二被疑事件について、右「総インフ化」についての捜査報告書等の疎明資料を添付したうえ、被疑事件及び差し押えるべき物を右(1)と同様とし、捜索すべき場所を原告救援センターとしたうえで、捜索差押許可状の発布を請求したところ、即日その発布を受けた。

(3) 同日、関警備課長は、同裁判所裁判官に対し、第一被疑事件について、

① 松村園江、三澤静江及び三澤荘への入居を斡旋したたつみ不動産経営者の各調書等の疎明資料を添付したうえ、原告甲野の三澤荘への偽名入居について別紙一のとおりの被疑事実によって、原告甲野の逮捕状の発布を、

② 右各調書のほか、原告甲野が原告救援センターに勤務していることの記載がある捜査報告書等を疎明資料として添付したうえ、差し押えるべき物を、原告甲野の偽名入居の犯行に関係あると認められる物を別紙二のとおり列挙して、捜索すべき場所を、原告甲野宅及び原告救援センターとしたうえで、捜索差押許可状の発布を、

それぞれ請求したところ、即日それらの令状の発布を受けた。

2 本件各捜索差押及び本件逮捕の実施状況等

(一) 原告甲野宅における捜索差押及び逮捕の状況

(1) 捜索差押の状況

ア 被告津田は、他の愛宕署員数名とともに、昭和六三年七月二〇日午後一時三〇分ころ、原告甲野宅において、同人に対し、本件両事件について発布された各捜索差押許可状を呈示し、同日午後三時三〇分ころまでの間、原告甲野を立会人として、原告甲野宅を捜索し、第一被疑事件につきガス料金郵便振込領収書など九件八一点を、第二被疑事件につき手帳など二件二点を発見、これらを差し押えた。右押収物は、本件両事件と関連性があり、捜索差押許可状に記載された「差押えるべき物」に該当し、押収の必要があった。なお、この間、原告甲野から特に捜索差押についての抗議等はなかった。

イ 第一押収物及び第二押収物について原告が争っている押収物と本件各事件との関連性は左記のとおりである。

(a) 本件第一押収物・番号五(紙片、2月…と記載のあるもの)

本品は、第一被疑事件における原告甲野の偽名入居の事実調査に関するメモに当たる。

(b) 本件第二押収物・番号一(手帳、1988と記載のあるもの)

本品には、暗号と認められるものや数字等が記載されており、中核派の組織編成、戦術、闘争計画等に関する文書、暗号等に当たる。

(c) 本件第二押収物・番号二(紙片、17…と記載のあるもの)

本品は水溶紙で、数字が記載されており、中核派の組織編成、戦術、闘争計画等に関する文書、暗号等に当たる。

(2) 逮捕の状況

被告津田は、右捜索差押終了後、第一被疑事件に関し事実を明らかにする必要から、原告甲野に対し、愛宕署への任意同行を求めたが拒否されたので、同日午後三時四五分ころ、本件逮捕状を示したうえ、有印私文書偽造罪及び同行使罪で逮捕する旨告げて、原告甲野を逮捕した。

(二) 原告救援センターにおける捜索差押

(1)ア 被告小山及び同田中(以下、両者を併せ呼ぶ場合には「被告小山ら」という。)は、他の警察官らとともに約一〇名で、同月二〇日午後一時五〇分ころ、原告救援センターにおいて、伊藤令子に対し、本件両事件について発布された各捜索差押許可状を呈示し、同日午後四時一〇分ころまでの間、右同女を立会人として、原告救援センター内を捜索し、被告田中は第一被疑事件につき電話帳など一〇件一七点を、被告小山は第二被疑事件につきノートなど一七件一八点をそれぞれ発見し、これらを差し押えた。被告小山らが押収した物は、それぞれ本件両事件と関連性があり、捜索差押許可状に記載された「差押えるべき物」に該当し、差押の必要があった。

イ 本件第三押収物及び第四押収物は、それぞれ、左記の理由により、本件両事件と関連性がある。

(a) 本件第三押収物・番号一(電話番号帳、Telephone List)

本品には、中核派関係者の電話番号等も記載されており、第一被疑事件は中核派が深く関与していることから、事件の背後関係等を明らかにする住所録に当たる。

(b) 本件第三押収物・番号二(ハガキ・乙野緑あて)、番号三(ハガキ、甲野太郎・みどりあて)及び番号四(茶封筒、乙野緑あて)

本品は、中核派と関係を有する者または関係団体からの組織上の指示、連絡及びこれに関する報告類の文書に当たる。

(c) 本件第三押収物・番号五(貯金通帳、乙野緑名義)

本品は、第一被疑事件における原告甲野の偽名入居の事実を明らかにする金銭出納帳に当たる。

(d) 本件第三押収物・番号六(ハガキ、乙野あて)及び番号七(ハガキ、田中美恵子あて)

右(b)項同様の理由による。

(e) 本件第三押収物・番号八(都立××高校同期会名簿)

本品は、原告甲野の交友関係から、第一被疑事件の背後関係等を明らかにする同窓生名簿に当たる。

(f) 本件第三押収物・番号九(ビニール袋、黒色、ハガキ・通帳が入っていたもの)

本品には、ハガキ、貯金通帳が入っており、これらは、中核派関係者または関係団体からの組織上の指示、連絡及びこれに関する報告類の文書に当たる。

(g) 本件第三押収物・番号一〇(ビニール袋、透明のもの、ハガキが入っていたもの)

本品には、ハガキが入っており、これは、中核派関係者または関係団体からの組織上の指示、連絡及びこれに関する報告類の文書に当たる。

(h) 本件第四押収物・番号一(ノート、本貸し出しノートと記載あり)

本品は、原告救援センターへの人の出入り状況及び中核派関係者の活動ないし行動から、第二被疑事件の背後関係等を明らかにする文書に当たる。

(i) 本件第四押収物・番号二(機関紙、「前進」第1394号)

本品は、中核派の機関紙であり、中核派の組織上の主義、主張、方針及びこれらをあおる機関紙に当たる。

(j) 本件第四押収物・番号三(機関紙、「婦人民主クラブ」第48号)

本品は、中核派傘下団体である婦人民主クラブの機関紙であり、中核派及び同派傘下団体の組織上の主義、主張、方針及びこれらをあおる機関紙に当たる。

(k) 本件第四押収物・番号四(住所録、エンジ色表紙のもの)

本品には、中核派構成員や三里塚闘争に関与している団体等が記載されており、第二被疑事件の背後関係等を明らかにする住所録に当たる。

(1) 本件第四押収物・番号五(手帳、エンジ色で1988)と表紙に金文字あり)

本品には、多数の氏名、団体、数字、活動状況等が記載されており、第二被疑事件の計画、連絡、報告類等の文書及び電話メモに当たる。

(m) 本件第四押収物・番号六(フロッピーディスク、SHARP・MF2DDと表示あり)

本品は、第二被疑事件に関し、中核派の犯行計画、連絡、報告類等を入力したフロッピーディクス類に当たる。

(n) 本件第四押収物・番号七(メモ、「231号(7月号)」と書き出しのもの)

本品には、数字、文字、計算式等が記載されており、第二被疑事件の計画、指令、連絡、報告類等の文書に当たる。

(o) 本件第四押収物・番号八(原稿用紙、「三里塚」と書き出しのもので六枚つづりになったもの)

本品には、中核派の活動等が記載されており、中核派の組織上の主義、主張、方針及びこれらをあおる原稿に当たる。

(p) 本件第四押収物・番号九(「逮捕者一覧表(5)」と表示のもの)及び番号一〇(「逮捕者一覧表(6)」と表示のもの)

本品には、いずれも中核派構成員等が記載されており、中核派構成員との関係及び第二被疑事件の背後関係等を明らかにする文書物件に当たる。

(q) 本件第四押収物・番号一一(メモ、クリップで止められ八枚つづりのもの)

本品には、中核派構成員等及び数字、地図等が記載されており、第二被疑事件の計画、指令、連絡、報告類等の文書及び中核派構成員との関係を明らかにする文書物件に当たる。

(r) 本件第四押収物・番号一二(機関紙「武装」1988年8月号)

本品は、中核派の機関紙であり、中核派の組織上の主義、主張、方針及びこれらをあおる機関紙に当たる。

(s) 本件第四押収物・番号一三(金銭出納帳、「1986」と書き出しのもの)

本品には、原告救援センターの金銭出納状況が記載されており、第二被疑事件に関係があると認められる金銭出納簿に当たる。

(t) 本件第四押収物・番号一四(メモ、「個人」と書き出しのもので五枚つづりになったもの)

本品には、多数の氏名、団体、数字、日付け等が記載されており、第二被疑事件の計画、指令、連絡、報告類等の文書に当たる。

(u) 本件第四押収物・番号一五(住所録、「ADDRESS」と表示のもの)

本品には、中核派構成員等が記載されており、第二被疑事件に関係あると認められる住所録に当たる。

(v) 本件第四押収物・番号一六(封書、救援連絡センターあてのもの)

本品は、中核派から送られた組織上の主義、主張、方針及びこれらをあおる文書に当たる。

(w) 本件第四押収物・番号一七(茶封筒、救援連絡センター御中と表示のもの。在中品、メモ・写真)

本品には、警察の捜査に関するメモ及び警察署内の写真が同封されており、第二被疑事件に関係があると認められる計画、指令、通信、連絡、報告類等の文書及び中核派の戦術、闘争計画等に関する文書、写真に当たる。

(2) 立会人の選定と捜索差押時の措置

ア 被告小山らは、伊藤令子が原告救援センターの事務局員であったことから同女を立会人として右(一)の捜索差押を開始した。

イ 被告小山らは、原告救援センターの捜索場所が中央部の本棚で二部屋に区切られた構造になっており、立会人としては右伊藤令子一人であったことから、捜索を一部屋ずつ行うこととし、もっとも捜索の状況を確認しやすい箇所にいて立ち会ってもらいたいと告げると、同女はこれを承諾し、適宜場所を移動しながら捜索の状況を見守った。

ウ 被告小山は、捜索中、伊藤令子から押収物の一部について自分のものだから押収物と関係のない旨申入れがあったが、それらが同女のものであるとの特定をできず、他方事務局員が共同使用する場所に置かれてあり、差し押えるべき物に該当したことからこれを差し押えた。

エ 電話発受信の禁止

(a) 被告小山らが、原告救援センターに入った直後及び捜索を開始したころの二回、伊藤令子が電話をしようとして受話器を取るなどしたことがあったので、そのたびに被告小山は同女に対し、電話先や用件を尋ねたが、全く答えなかったため、電話させないことがあった。

また、原告救援センターの捜索を実施中、電話がなり、伊藤令子が出ようとしたので、被告小山はこれを制し、代わって警察官に受話器を取らせてすぐに切らせたり、電話が鳴るままにしたことも何回かあった。

(b) 被告小山の右措置は、刑事訴訟法二二二条第一項・一一一条一項を根拠として、警察官が捜索差押を行う場合の必要な処分であって適法である。

すなわち、右措置を取らなければ、伊藤令子が捜査の着手を外部に通報し、その結果中核派構成員ないし原告救援センター関係者ら多数が同センターに集まって捜索差押を妨害されるおそれがあり、また証拠資料を隠匿されるおそれが存したこと、また捜索差押の迅速性、円滑性が妨げられるおそれがあったことなど、電話の発受信による弊害の発生を防止する必要があったからである。

3 本件逮捕及び本件差押後の経緯

(一) 原告甲野の身柄措置について

愛宕署員は、原告甲野を逮捕後取り調べたが、同女が完全に黙秘したため、第一被疑事件及び押収物と本件両事件に関する供述を得られなかったものの、同年七月二二日、原告甲野を第一被疑事件で東京地方検察庁に送致した。

(二) 押収物の措置について

愛宕署員は、押収物について事件との関連性等を捜査しながら、押収の継続の必要性を判断し、必要のない物は還付するなどして本件両事件の捜査を継続した。

四  請求原因に対する被告国の答弁

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1について

(一) 同(一)のうち、原告甲野が原告救援センターの事務局員であること及び原告救援センターが法人格を有しないことは認め、その余は知らない。

(二) 同(二)のうち、相被告ら三名が警察官であることは認める。

2 請求原因2について

請求原因2(一)及び(二)については、被告東京都の認否を援用する。

3 請求原因3について

被告東京都の認否を援用する。

4 請求原因4について

(一) 同(一)については争う。

(二) 同(二)(1)のうち、刑事訴訟法一〇二条二項の解釈についての主張並びに原告救援センターが原告甲野の勤務先であること及び第二被疑事実が被疑者不詳のゲリラ事件であることは認め、その余は否認ないし争う。

同(二)の(2)は知らない。主張の趣旨は争う。

同(二)の(3)は争う。

5 請求原因7及び9は争う。

(被告国の主張)

東京簡易裁判所裁判官は、提供された疎明資料を慎重に審査した結果、本件各令状の請求について、刑事訴訟法所定の令状発布の要件が存在するものと認めて本件各令状を発布したのであり、憲法及び刑事訴訟法に違反する行為は存しない。

また、裁判官の令状発布行為が国家賠償法一条一項の適用上違法であるとの評価を受けるのは、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなどその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認めうるような特別の事情があることが必要であると解されるところ、原告らは右特別の事情について何ら主張していない。

五  請求原因に対する被告津田、同小山及び同田中の答弁

(請求原因に対する認否)

請求原因8は否認する。その余の請求原因に対する認否は、被告東京都の認否と同様である。

(被告津田、同小山及び同田中の主張)

仮に、本件逮捕及び本件各捜索差押の実施について、原告らの主張の如き違法行為があったとしても、被告津田ら三名は、被告東京都の公権力の行使にあたる公務員であり、その職務として本件逮捕及び本件各捜索差押を実施したのであるから、被告東京都が原告らに対する損害賠償責任を負うことがあるのは格別、被告津田ら三名が、個人として、直接原告らに対する損害賠償責任を負うものではない。

第三 証拠〈省略〉

理由

第一原告救援センターの請求について

一原告救援センターが当事者能力を有する権利能力なき社団に該当するか否かについて判断する。

1  原告救援センターは法人としての登記がなされていないことは、当事者間に争いがないが、法人格を有しない社団であっても、代表者又は管理人の定めのある社団については、民事訴訟法上当事者能力を有するものとされている(同法第四六条)。そして、右法条にいう社団であると認められるためには、団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要すると解するのが相当である(最高裁判所昭和三九年一〇月一五日第一小法廷判決・民集一八巻八号一六七一頁、同昭和四二年一〇月一九日第一小法廷判決・民集二一巻八号二〇七八頁)。

2  これを原告救援センターについてみるに、証拠(〈書証番号略〉、証人山中、原告甲野本人及び弁論の全趣旨)を総合すれば、原告救援センターは、世話人会が中心となって昭和四四年三月二九日に発足したこと、原告救援センターの主な仕事としては、「救援連絡センターの仕事および機構」なる書面(〈書証番号略〉)において、「全逮捕者に対する弁護士接見にはじまり、必要に応じた、適切な法律的援助を行う。」などと規定されていること、原告救援センターの機構を定めたものとしては、右「救援連絡センターの仕事および機構」なる書面しかないところ、それによれば、原告救援センターは、運営委員会を総括機関とし、その中に常任委員会及び事務局が設置されることが規定されているものの、原告救援センターの代表者及び運営委員の選出方法並びに運営委員会の開催については何ら規定されていないこと、ただ運営委員会の総会に関しては年に二回程度開催されるということで定例化しており、右総会では多数決により意思決定されていること、原告救援センターの財政については、右「救援連絡センターの仕事および機構」なる書面において、事務局経費および諸経費は協力会員からの会費によってまかなうとされ、会計報告は機関紙「救援」上に行われると規定されていること、原告救援センターの財政は事務局が担当していること、原告救援センターの資金的な面での支持者としては、原告救援センターの趣旨に賛同し維持費を納める協力会員及び機関紙「救援」の購読者が存すること、原告救援センターの第三代目の代表者庄司宏は平成三年一〇月五日に死亡し、その後現在に至るまで代表者が選出されていないこと、同月二一日の臨時運営委員会において、代表弁護士として訴外保持清が選出され、また代表者代行として事務局長である訴外山中幸男が選出されたことの各事実が認められる(なお、被告国を除く当事者間では、原告救援センターが昭和四四年三月に設立されたこと及び庄司宏がその代表者であったことは争いがない。)

右認定事実に基づいて検討すると、原告救援センターについては、団体の代表者に関する規約が何ら存しないというばかりでなく、具体的な選出手続も不明であり、前代表者である庄司宏が死亡してから既に一年半以上も経過しているにもかかわらず未だに代表者が選出されておらず(山中が代表者代行として選出されているが、代表者でないことにはかわりない。なお、同人は、原告救援センターの代表者となる人格的な適格者がいないことから代表者の選任が遅れているかの証言をしているが、代表者の具体的選出手続は右山中の証言をもってしても不明であり、これを明らかにするに足りる証拠はない。)、また団体の意思決定やその執行機関について、総会の開催や運営委員の選出に関する規約も存しないうえ、団体の構成員についても、「救援連絡センターの仕事および機構」なる書面の記載からも不明確であり、その他に構成員を定める規約も存在せず、その範囲も明らかでない(証人山中は、協力会員及び購読者をもって原告救援センターの資金的な面での支持者という意味で同原告を構成する基本的な範囲であること、運営委員の選出基盤としては、協力会員、獄中者及び原告救援センターから依頼する可能性のある者が該当すること、現に運営委員としては資金負担していない者もいることをそれぞれ証言しているが、右証言によっても、結局運営委員の選出方法及び原告救援センターの構成員の範囲は不明であるというべきである。)のであって、結局原告救援センターにおいては、団体としての主要な点が確定しているものと認めることができず、原告救援センターをもって民事訴訟法四六条の規定する社団の実体を有するものと認めることは困難であるというほかない。

よって、原告救援センターの各被告に対する本件訴えはいずれも不適法であるから、却下を免れない。

第二原告甲野の請求について

一請求原因1のうち、原告甲野が原告救援センターの事務局員であること、被告津田、同小山及び同田中が被告東京都の公務員であること並びに請求原因2(一)及び(二)については、当事者間に争いがない。

二右争いのない事実に、証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人、被告津田本人、同小山本人)を総合すれば、次の事実が認められる(ただし、請求原因2の(三)ないし(六)については、被告国を除く当事者間には争いがない)。

1  昭和六三年二月二九日午前四時三〇分ころ、何者かが東京都新宿区西新宿二丁目三番所在の財団法人東京都駐車場公社西新宿駐車場において、成田空港関連業者の東京空港交通株式会社所有の大型自動車四台に時限式発火装置を作動させて放火し、右車両を焼燬し、付近車両等に延焼するおそれのある危険を発生させるという、火炎びんの使用等の処罰に関する法律違反等の事件が発生した(本件第二被疑事件)。その後、同年三月には、中核派がその機関紙「前進」及びビラにおいて右犯行を自認する表明を行った。警視庁(新宿署、愛宕署、公安部公安第一課等)では、これまでに中核派が成田空港建設阻止を唱えていわゆる「テロ・ゲリラ事件」を敢行しており、またその場合には実行行為者以外にも多数の構成員やシンパが関与してきたことから、右犯行を中核派による組織的、計画的犯行であると判断した。

2  そこで、愛宕署及び公安部公安第一課(以下「愛宕署等」といい、公安部公安第一課のみを呼称する場合には「公安第一課」という。)は本件第二被疑事件に関して中核派の構成員に対する捜査を実施した。すなわち、愛宕署等において、原告甲野は、中核派の重要な拠点であるとされている前進社第二ビルに対して昭和五三年一二月に行われた捜索の際に立ち会ったこと、同原告が中核派の主催する集会等に参加していることが確認されていたこと、同原告の夫である訴外甲野太郎は前進社の専従職員であると判断していたこと等から、中核派の主要構成員であると判断されていたため、本件第二被疑事件の捜査の過程で愛宕署による同原告に対する行動確認、尾行を実施した結果、同原告が東京都墨田区〈番地略〉所在の三澤荘というアパート二階一〇号室に大村園江名義で入居している事実が判明した。

その後の捜査の結果、賃貸人である三澤静江に対する昭和六一年三月の賃貸借申込書及び昭和六三年二月二九日付け貸室賃貸借契約書において、大村園江名義により申込または契約の更新がなされ(右貸室賃貸借契約書には、賃借人の氏名欄に「大村園江」と記載され、その名下に「大村」と刻した印鑑が押捺されていることが認められる。)、右各書面が三澤静江に交付されていたこと、連帯保証人として松本尚子の名前が記されていたこと、賃貸借申込書において、勤務先として斉生会中央病院との記載があったこと、原告に三澤荘を斡旋したのは、たつみ不動産であること、松村園江(旧姓大村園江)は、大学の同窓生である伊藤道子から自分がアパーに入る際に旧姓を貸してほしいと頼まれ、右伊藤自身が使うという条件で右伊藤に対して旧姓の「大村園江」名義を貸したこと、右松本尚子及び伊藤道子は両名とも中核派の構成員であると判断されていたこと、原告甲野及び大村園江(松村園江)が右斉生会中央病院に勤務していた、あるいは勤務している事実はないことの各事実が判明した。

そこで、愛宕署の方では、特に原告甲野が既に二年四月もの間偽名で三澤荘に入居していたこと、右偽名入居にあたって原告甲野以外の中核派の構成員が関与していたと認定されたことから、原告甲野の有印私文書偽造・同行使事件(本件第一被疑事件)は中核派の組織的、計画的犯行であり、しかも右原告甲野宅は中核派のアジトであると判断した。

3  愛宕署等は、右1及び2の事実のほか、中核派がゲリラ事件を敢行するに当たり「総インフ化」という態勢を取り、公然・非公然の活動家を問わず全員に対して、対立セクト、権力又はターゲットに関する調査及び報告を義務付けているものと判断していたこと、原告救援センターは、中核派構成員とされる原告甲野の勤務先であり、同センターには中核派の構成員が出入りしていることを総合して、原告甲野宅及び同救援センターにつき、本件第一被疑事件及び第二被疑事件に関連して、それらの証拠物が存在する蓋然性が高く、捜索差押を行う必要があると判断し、また、原告甲野に対する逮捕については、任意捜査によると証拠資料の隠滅あるいは逃亡されるおそれもあり、逮捕の必要性があると判断した。

4(一)  そこで、関警備課長は、第二被疑事件について昭和六三年七月一四日、中核派の犯行声明文、実況見分調書、捜査報告書のほか、昭和六〇年三月に発行された機関紙「前進」一二二六号(「総インフ化」、すなわち、中核派の構成員は非公然でなくても全員がゲリラ敢行にあたって、攻撃目標に対する調査、報告及び協力を義務付ける旨記載されている。)を疎明資料として原告甲野宅に対する捜索差押許可状の発布を東京簡易裁判所裁判官に対して請求したところ、同裁判所裁判官は、右同日、右場所を捜索すべき場所とする本件第二捜索差押許可状(二)を発布した。

(二)  さらに、同月一九日、関警備課長は、第一被疑事件について伊藤道子に名前を貸した松村園江の調書、アパートの所有者である三澤静江の調書、原告甲野に不動産を斡旋したたつみ不動産の大野社長の調書等を疎明資料として原告甲野に対する本件逮捕状の発布を、右本件逮捕状請求の際の疎明資料と同様の資料(なお、原告救援センターに対する捜索差押許可状の請求については、右疎明資料の他に原告甲野が原告救援センターに勤務している旨の記載がある捜査報告書)に基づき本件第一捜索差押許可状の発布(原告甲野宅及び原告救援センターをそれぞれ捜索差押場所とする二通の許可状の発布)を、さらに、第二被疑事件について中核派の構成員が原告救援センターに多数出入りしている旨の記載がある捜査報告書及び原告甲野が原告救援センターに勤務している旨の記載がある捜査報告書等を疎明資料として原告救援センターを捜索差押場所とする捜索差押許可状の発布を、東京簡易裁判所裁判官に対し、それぞれ請求したところ、同裁判所裁判官は、右同日、本件第一捜索差押許可状(一)、(二)及び本件第二捜索差押許可状(一)並びに本件逮捕状をそれぞれ発布した。

5  そして、被告津田は、合計五、六名の他の警察官とともに、昭和六三年七月二〇日午後一時三〇分ころから午後三時三〇分ころまでの間、原告甲野に対して、原告甲野宅を捜索場所とする本件第一捜索差押許可状(二)及び本件第二捜索差押許可状(二)を呈示したうえ、同原告を立会人として、原告甲野宅を捜索し、本件第一被疑事件につき本件第一押収物を、第二被疑事件につき本件第二押収物をそれぞれ差し押えた。

その後、被告津田は、原告甲野に対し、本件第一被疑事件につき、愛宕署への任意同行を求めたが拒否されたため、同日午後三時四五分ころ、本件逮捕状を示したうえ、同原告を逮捕した。

6(一)  また、右同日、本件第二被疑事件につき被告小山が他の警察官とともに、本件第一被疑事件につき被告田中が他の警察官とともに(両事件で合計約一〇名の警察官)、午後一時五〇分ころから年後四時一〇分ころまでの間、当時原告救援センターの事務局員であった伊藤令子に対し、原告救援センター内原告甲野等の使用場所を捜索場所とする本件第一捜索差押許可状(一)及び原告救援センターを捜索場所とする本件第二捜索差押許可状(一)を呈示したうえ、同女を立会人として、原告救援センターを捜索し、本件第一被疑事件につき本件第三押収物を、本件第二被疑事件につき本件第四押収物をそれぞれ差し押えた。右捜索の結果、原告甲野の使用する机ないしその引き出しの中から差し押えたものは、本件第三押収物及び本件第四押収物のうち番号七ないし一二及び一五である。

なお、右捜索にあたって、被告小山らが机の上に置かれていたかばんを捜索しようとした際、伊藤令子から、そのかばんが私物であり、令状と関係がないとの抗議がなされたが、被告小山らとしては、右かばんが伊藤令子の私物であると特定できるものがなく、また右かばんは事務局員が共同使用する場所に置いてあったことから、そのかばんを開いて中を捜索し、住所録、手帳及びフロッピーディスクを差し押えた(本件第四押収物のうち番号四ないし六の押収物がこれらにあたる。)。

(二)  また、右捜索の際、伊藤令子が事務机上にあった電話を取り上げ電話しようとしたことがあり、被告小山は右伊藤に対し通話先を尋ねたが、同女は関係ないだろうなどと言って答えなかったため(以上の点については、被告国を除く当事者間に争いがない。)、同女に対しては電話をかけさせなかった。

さらに、右捜索中、外部から原告救援センターに対して電話がかかり伊藤令子が応答しようとしたが、被告小山は、右伊藤には、電話に出させないで、警察官が受話器を取り上げてベルを消したり、電話を鳴るがままに任せておいたことがあった(この点については、被告国を除く当事者間に争いがない。)。

7  原告甲野は、昭和六三年七月二〇日から警視庁本部留置場において留置され、同月二二日午後四時八分、処分保留のまま釈放された。

8  昭和六三年一〇月一四日、東京地方検察庁から、本件第一押収物及び本件第三押収物がすべて還付された。また、平成元年一月三〇日、愛宕署の方から、本件第四押収物のうち、番号一、六、九、一〇及び一三の押収物が還付された。さらに、原告らは、昭和六三年一二月一九日、東京地方裁判所に対し、本件差押処分の取消を求めて準抗告を申立てたところ(同裁判所昭和六三年(む)第一〇一二号事件)、翌平成元年一月三一日、同裁判所は、本件第四押収物のうち、番号四(住所録―エンジ色表紙のもの)及び五(手帳―エンジ色で1988と表紙に金文字あり)について、本件第二被疑事件の被疑事実との関連性が稀薄であるとして、右両物件に対する差押処分を取り消し、その余の申立については、すでに還付されているもの及び還付する旨の通知を了しているもの(右平成元年一月三〇日に還付されたもの)については、申立の利益を欠くとし、その余のものについては右被疑事実との関連性及び差押の必要性が否定できないとして、棄却する旨の決定を出した。その後、同年二月六日、愛宕署から右番号四及び五の押収物が還付された。

しかし、その余の押収物についてはいまだ還付されていない。

三請求原因3、5及び6(被告東京都の責任)について

1  まず原告甲野に対する本件逮捕状の請求及び逮捕行為について検討する。

(一) 本件逮捕状の請求について

逮捕状による逮捕に関しては、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要であり(刑事訴訟法一九九条一項)、逮捕状の請求にあたっては「逮捕の理由及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供」しなければならない(刑事訴訟規則一四三条)。そして、右「相当な理由」については、当該令状請求時において、捜査官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由が認められれば足りると解するのが相当である。

本件において、前認定のとおり、原告甲野が東京都墨田区〈番地略〉所在の三澤荘というアパート二階一〇号室に大村園江名義で入居していたこと、原告甲野に右三澤荘を斡旋したたつみ不動産に対する捜査により、原告甲野が昭和六一年三月に大村園江名義で三澤荘に関する賃貸借申込書を交付していたこと、右賃貸借申込書において、大村園江の勤務先としては斉生会中央病院との記載があったが、原告甲野及び大村園江(松村園江)が右斉生会中央病院に勤務していた事実、あるいは勤務している事実はないこと、また、三澤荘の賃貸人である三澤静江に対する捜査により、原告甲野が昭和六三年二月二九日付けで大村園江名義により右賃貸借契約を更新し、貸室賃貸借契約書を交付していたこと、連帯保証人として松本尚子の名前が記されていたこと、さらに松村園江(旧姓大村園江)に対する捜査の結果、同女が伊藤道子から自分がアパートに入る際に旧姓を貸してほしいと頼まれ、伊藤自身が使うという条件で右伊藤に対して旧姓の「大村園江」名義を貸したことがあるが、右伊藤以外の者に貸したことはないこと並びに右松本尚子及び伊藤道子は両名とも中核派の構成員であることが愛宕署の本件第一被疑事件の捜査の結果、判明したものである。

右事実関係に鑑みると、愛宕署の関警備課長において、原告甲野が本件第一被疑事実を犯したと疑うに足りる相当な理由があると判断したことには合理的な理由があったというべきである。また、前認定のとおり、本件第一被疑事件には、中核派という組織が関与していることが推認されたのであるから、明らかに逮捕の必要性がなかったとは到底いえない。しかも、前認定のとおり、関警備課長は、本件逮捕状発布の請求に当たって、松村園江の調書、三澤静江の調書及びたつみ不動産の大野社長の調書等を疎明資料として添付しているのであって、原告甲野が本件第一被疑事実を犯したと思料されるべき資料を提供していることが認められる。そうすると、関警備課長において、東京簡易裁判所裁判官に対して、本件逮捕状の請求をしたことについて違法はないというべきである。

ところで、原告らは、本件逮捕は原告救援センターに対する捜索差押を行うためにデッチあげられたものであり、犯罪としては成立しないか、あるいは少なくとも可罰的違法性を欠いているのであるから、かかる状況のもとでの本件逮捕状の請求は違憲・違法である旨主張している。しかしながら、原告甲野が本件第一被疑事件を犯したと疑うに足りる相当な理由があったことは、前判示のとおりであるから、第一被疑事件が原告らに対する捜索を行うためにデッチあげられた事実無根のものとは認め難いし、他に第一被疑事件が可罰的違法性を欠く行為であると認めるに足りる証拠はない。加えて、本件第二被疑事実については、後にみるとおり疎明資料として、原告救援センターには中核派の構成員が多数出入りしている旨の記載がある捜査報告書及び原告甲野が原告救援センターに勤務している旨の記載がある捜査報告書等を添付したうえで、原告救援センターに捜索場所とする捜索差押許可状の発布を請求しているのであって、原告救援センターに対する捜索差押許可状の請求が第一被疑事実に限られ、第二被疑事実については行われなかったというわけでもなく、本件第一被疑事実が原告救援センターに対する捜索差押を可能にするために虚構したものであるとは認められない。よって、原告らの右主張は採用できない。

なお、証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、本件第一被疑事実判明後においても、原告甲野は、三澤静江から、本名によって三澤荘の一室を賃借していること、三澤静江自身が被害届を撤回するとの上申書を作成していることが認められるが、いずれも本件逮捕後の事実であるから、右事実が認められるからといって、本件逮捕状の請求が違法となるわけではない。また、原告らは、原告甲野が逮捕後勾留されていないことを捉えて、本件逮捕状の請求に関し、そもそもその必要性に欠けていたことの根拠の一つであるとしているようである。しかし、勾留請求するかどうかについては、検察官の判断するところであり(刑事訴訟法二〇四条及び二〇五条)、検察官が勾留請求をしなかったことが直ちにその前提となる逮捕の必要性の欠如を意味するものではないし、前認定のとおり、当時の資料から中核派の組織関与が推認されたこと、現に原告甲野が偽名で入居していること等からすれば、関警備課長において同人の身柄を拘束しなければ証拠資料の湮滅あるいは逃亡のおそれがあると判断したことには合理性が認められる。

(二) 本件逮捕状の執行(本件逮捕行為)について

右(一)のとおり、本件逮捕状発布の請求自体には違法性は認められない。そして、被告津田は、後記四のとおり、東京簡易裁判所裁判官が適法に発布した本件逮捕状を原告甲野に呈示したうえ、同人を逮捕したものであり、また、原告甲野は、任意の捜査に非協力的であったことは明らかであり(被告津田本人)、前認定のとおり、本件第一被疑事件については中核派という組織が関わっていたと認められ、逮捕の必要性も首肯しうるから、本件逮捕行為に違法性は認められない。

2  次に第一被疑事実に関する本件第一捜索差押許可状(一)、(二)の請求について検討する。

関警備課長において、原告甲野が本件第一被疑事実を犯したと疑うに足りる相当な理由があると判断したことに合理的理由があることは、前記1のとおりであり、また前記二の1ないし3の認定事実によれば、関警備課長において原告甲野宅及び同原告が勤務する原告救援センターに右被疑事実に関する証拠物が存在すると判断したことにも合理性があると認められ、本件第一捜索差押許可状(一)、(二)の請求に際しては、前記二の4(二)記載の資料を添付したのであるから、右各捜索差押許可状の請求に違法はないというべきである。

3  本件第二被疑事実に関する本件第二捜索差押許可状(一)、(二)の請求について検討する。

(一) 捜査官が裁判官に対して、捜索差押許可状を請求するためには、「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」で(刑事訴訟法第二一八条)、被疑者が「罪を犯したと思料されるべき資料」を提供しなければならない(刑事訴訟規則一五六条一項)が、右の「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」とは、通常逮捕において要求される「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」(刑事訴訟法第一九九条一項)に比して低い程度の嫌疑で足り、客観的に犯罪の嫌疑が一応存在することを根拠付けるものであれば足りるものと解されているのであるから、右令状の発布を請求するに際しての捜査官の心証としては、右令状請求時において、捜査官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により客観的に犯罪の嫌疑が一応存在すると認められれば足りると解するのが相当である(最高裁判所昭和五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集三二巻七号一三六七頁及び最高裁判所平成元年六月二九日第一小法廷判決・民集四三巻六号六六四頁参照)。また、捜索の対象が被疑者以外の第三者の住居その他の場所に対するものである場合には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」であることが必要である(刑事訴訟法第二二二条一項、第一〇二条二項)から、第三者に対する捜索にあたっては、捜査官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により、第三者に対する捜索差押をなすべき必要性があり、かつ、そこに捜索すべき物が存在する蓋然性を認めるに足りる状況があることが要求されるものと解される。

(二) 昭和六三年二月二九日午前四時三〇分ころ本件第二被疑事件が発生したことは、前記二の1のとおりであり、前記二の1ないし6の認定事実及び証拠(原告甲野本人、被告津田本人、被告小山本人)によれば、本件第二被疑事件に関して、事件発生後中核派による犯行声明が行われたことから、捜査を開始するに当たって、愛宕署等が右犯行を中核派によるものであると判断したこと、中核派はゲリラ戦を敢行するに当たって「総インフ化」という体制をとるものとされていること、原告甲野は中核派の拠点である前進社第二ビルに対する捜索に当たって立会人となったことがあり、また原告甲野自身、中核派主催の集会等に参加していること等からすれば、同原告を中核派の主要構成員と評するか否かはともかく、同原告は同団体と深い関係を持っていること、しかも原告甲野は現に三澤荘の一室を偽名で賃借していたのであり、その賃借に当たって、原告甲野は中核派構成員であると判断されている伊藤道子に相談し、右伊藤の方で使用名義及び連帯保証人の準備をしたことが認められる。右事実によれば、本件第二被疑事件が被疑者不詳による犯罪であるとはいえ、愛宕署等が中核派が敢行したものとして捜査を開始したことには合理性があり、しかも右中核派の背後関係等を捜査することは本件第二被疑事件を解明するに当たって重要な事項であると認めることができるところ、前記二の3のとおり原告救援センターは原告甲野の勤務先であり、且つ中核派の構成員が出入りしていること及び前記の原告甲野と中核派との関係等を考慮すれば、関警備課長において原告甲野宅及び原告救援センター内に本件第二被疑事件に関する証拠物が存在する蓋然性があると判断したことにも合理性があるというべきである。しかも、前記二の4の認定のとおり関警備課長は、本件第二捜索差押許可状(一)、(二)の発布の請求に当たって、中核派の犯行声明文、実況見分調書、中核派構成員が原告救援センターに出入りしていることや原告甲野が原告救援センターに勤務していること等の各捜査報告書及び「総インフ化」の記載がされている機関紙「前進」一二二六号を疎明資料として添付しているのである。

そうすると、関警備課長において、本件第二被疑事実に関し、本件第二捜索差押許可状(一)、(二)の請求をしたことに違法はないというべきである。

4  本件第一捜索差押について検討する。

(一) 前認定のとおり、関警備課長が本件第一被疑事件に関し、本件第一捜索差押許可状(二)を、本件第二被疑事実に関して、本件第二捜索差押許可状(二)をそれぞれ請求したことが違法であるとは認められず、また後記四認定のとおり、愛宕署等の警察官らは、東京簡易裁判所裁判官が適法に発布したものと認められる右各捜索差押許可状に基づいて、原告甲野宅を捜索したものであるから右捜索差押の実施自体をもって違法であるということはできない。

(二) 本件第一被疑事実と各差押物との関連性について

原告らは、特に本件第一押収物のうちの番号五(紙片、2月…と記載のあるもの。〈書証番号略〉が右紙片に当たる。)について、本件第一被疑事実との関連性を争うので検討する。

証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、右紙片には「2月、権利50000、敷+1000、家賃18000」と記載され、これらを合計するための線が引かれていること、右紙片は、原告甲野が賃貸借契約の更新にあたっての費用を計算したメモであり、右紙片の内容は、要するに更新料が五万円、家賃値上がり分の敷金との差額が一〇〇〇円、前家賃が一万八〇〇〇円であることを意味するものであったことがそれぞれ認められる。

そして、右紙片は、その記載内容からすると、「2月」に賃貸借契約に関連してどれだけの金銭が必要であるのかを計算しようとしたメモであるとするのが素直な解釈ではあるが、迅速になされなければならない捜索差押においては、右紙片に記載された個々の数字が現実に更新料のメモなのか、個々の数字が暗号として特別の意味があるのかをその現場において直ちに判断することは困難であり、しかも捜索差押の段階において、外形上は何ら変哲のないメモであっても、そのメモ(数字)に特別の意味を付したものである可能性を全く否定しえないことを考えると、被告津田が、右紙片をもって別紙二の番号一(「革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派、通称中核派)の組織上の指示・連絡、およびこれに関する報告類の文書」)にあたると判断したとしてもあながち不合理であるということはできない。

したがって、被告津田らにおいて、右紙片を差し押さえたことをもって違法とまではいえない。

(三) 本件第二被疑事実と各差押物との関連性について

(1) 本件第二被疑事件について、原告甲野宅において差し押えられた物件は、本件第二押収物の番号一の手帳(1988の記載のあるもの)及び同番号二の紙片(17……と記載のあるもの)であるところ、被告東京都らは、右手帳及び右紙片について、別紙四の番号二の3項記載の「本件犯行に関係あると認められる、組織編成・戦術・闘争計画等に関する文書…暗号…」に該当すると主張している。

ア まず、右手帳について検討する。

証拠(原告甲野本人、被告津田本人)によれば、右手帳は小さなスケジュール表であり、右手帳には数字やアルファベットが記載されていたことが認められ、原告甲野は、右手帳に記載されていた数字は時刻を表す数字であり、アルファベットは略語として利用して記載していた旨供述している。そして、証拠(被告津田本人)によれば、被告津田は、右手帳には数字やアルファベットが記載されていたものの、その記載内容が判然としなかったため、暗号により記載されているものと判断して、別紙四の番号二3に該当するものとして差し押えたことが認められる。一般に、手帳やスケジュール帳といったものは、当該所持者の行動の予定等を記載するものであるうえ、先に判示したとおり、本件第二被疑事件が被疑者不詳による犯罪であるとはいえ、中核派が敢行したものと判断したことには合理性があること、原告甲野を中核派の主要構成員として評するか否かはともかく、同原告は中核派と深い関係にあると認められたこと、したがって、右手帳には原告甲野の行動予定を記載することにより、第二被疑事件の行動ないし計画の記載がなされている蓋然性があると判断したとしても不合理とはいえないこと、しかも、右手帳の記載はアルファベットを略語として用いてあったため、捜索差押に当たった警察官には、その内容を容易に理解しえず、却って、行動予定等を秘匿するために暗号を用いたものと判断せしめる要素となったと推認されること等からすれば、被告津田らにおいて、右手帳は本件第二被疑事実と関連性があり、別紙四の番号二3に該当すると判断したことには合理性があるというべきである。

したがって、右手帳を差し押えたことに違法はない。

イ 次に、右紙片について検討する。

証拠(原告甲野本人、被告津田本人)によれば、右紙片は水溶紙であること、紙片には七桁位の数字のみが並べて記載されていたことが認められる。そして、この点、原告甲野は右紙片には伊藤道子の電話番号が書いてあったと思う旨供述しているが、仮にそうであるとしても、単に数字が羅列してあるのみでは、捜索差押時において、右数字をもって電話番号であると断定することは困難であるし、また原告甲野自身、右紙片への記載は自分自身が見てわかるような書き方をしたにすぎない旨供述していること、さらにとりわけ右数字が水溶紙という特殊な用紙に記載されていたことをも考慮すると、被告津田らが右紙片をもって別紙四の番号二3に該当するものと判断したことには合理性が認められる。

したがって、右紙片を差し押えたことに違法はない。

5  本件第二捜索差押について検討する。

(一) 前認定のとおり、関警備課長が本件第一被疑事件に関し、本件第一捜索差押許可状(一)を、本件第二被疑事実に関して、本件第二捜索差押許可状(一)をそれぞれ請求したことが違法であるとは認められず、また後記四認定のとおり、愛宕署等の警察官らは、東京簡易裁判所裁判官が適法に発布したものと認められる本件第一捜索差押許可状(一)及び本件第二捜索差押許可状(一)に基づいて、原告救援センターを捜索したものであるから右捜索差押の実施自体をもって違法であると認めることはできない。

なお、原告らは、本件第二捜索差押について、押収拒絶権等を行使するのにもっとも適切な者(当時原告救援センターの代表者であった庄司宏及び原告救援センター所在の部屋の賃借名義人である葉山岳夫)が立ち会っていないのであるから刑訴法一一四条二項の趣旨に反し違法である旨主張する。しかし、本件第二捜索差押の執行に立ち会った伊藤令子は当時原告救援センターに勤務する事務局員であり、同女が右法条の「住居若しくは看守者又はこれらの者に代るべき者」に該当することは明らかであり、他に右伊藤を立会人としたことが違法であると認めるに足りる証拠もないから、被告小山及び同田中らが本件第二捜索差押に当たって、右庄司宏及び葉山岳夫を立ち会わせなかったとしても右捜索差押が違法になるというものではない。また、原告らは、電話の発受信の全面的禁止をもって本件第二捜索差押が違法となる旨主張するが、右電話の発受信の禁止という付随処分に違法があるとしても、そのこと自体によって何らかの損害が発生することがあるのは格別、右付随処分の違法が直ちに捜索差押の違法をもたらすものではないと解され、しかも本件においては右電話の発受信の禁止によって原告甲野が損害を被ったことを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用できない。

(二) そこで、以下、原告甲野との関係において「救援連絡センター内原告甲野等の使用場所」ないし「救援連絡センター」において差し押えられた物件の各被疑事実との関連性について検討するが、右場所における捜索差押の実施自体が違法でないことは先にみたとおりであるから、原告甲野に発生した損害という観点からは専ら同原告の所有物、ないしは同原告が使用する机から差し押えられた物に対する差押の関連性を問題にすれば足りると解される。なお、原告甲野が刑訴法一〇五条に基づく押収拒絶権を有するものとは認められない。

(1) 本件第一被疑事件に関する本件第三押収物について

前認定のとおり本件第三押収物は、原告救援センター内の原告甲野が使用する机の上ないしはその引き出しの中から差し押えられたものである。

ア そこで、本件第三押収物のうち、まず番号八(都立××高校同期会名簿)については、別紙二の差し押えるべき物(番号三の「同窓生名簿」)の範囲内の物件であると認められ、しかも本件第一被疑事件が、前認定のとおり、中核派が組織的に関与していたものと推認されること、また、本件第一被疑事件に関与した伊藤道子と松村園江(旧姓大村園江)とは大学の同窓生であり、現に同窓生の氏名が利用されるということがあったことからすれば、右押収物と本件第一被疑事件との関連性を肯定することができるというべきである。

イ 本件第三押収物のうち、番号五(預金通帳)については、一応別紙二の差し押えるべき物(番号三「金銭出納帳」)の範囲内の物件であると認められるところ、証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人、被告津田本人)によれば、右預金通帳はほとんど使用されていないこと、右通帳の最後に記載されたものは昭和六一年三月二四日の引き出しであること、原告甲野が三澤荘への入居を開始したのは昭和六一年三月からであることがそれぞれ認められる。そして、賃貸借契約の更新時を犯罪事実としている本件第一被疑事実を捜査するうえで、契約時の態様についても捜査することが不必要であるとはいえず、原告甲野が入居を開始した昭和六一年三月に右通帳から現に引き出しがあった以上、被告津田らにおいて、本件第一被疑事件との関連性があると判断したことが不合理であるとは認め難い。したがって、右通帳が入っていたビニール袋(本件第三押収物の番号九)も関連性を肯認しうることになる。

ウ 本件第三押収物のうち、番号二、三、六及び七の各ハガキについて、被告東京都らは、右各ハガキが別紙二の番号一の差し押えるべき物の範囲内の物件である旨主張する。

証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、本件第三押収物の番号二のハガキ四枚及び同番号六のうちのハガキ一枚はいずれも弁護士訴外遠藤誠から原告甲野宛の年賀状であること(昭和五九年から昭和六三年のもの)、また証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、同番号三のハガキ三枚はいずれも甲野太郎及び原告甲野宛の昭和六三年度の年賀状であること、さらに証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、同番号七のハガキ二枚はいずれも田中美恵子宛の年賀状であるが、田中美恵子とは原告が用いるペンネームであること、また証拠(〈書証番号略〉)によれば、同番号六のうちのハガキ一枚は喪中のために年末年始の挨拶を遠慮する旨を知らせたものであることがそれぞれ認められる。そして、右各ハガキは、若干の添え書きがあるものがあるが、それも日常的挨拶文の域をでるものではなく、いずれも本文は印刷され、あるいは市販のゴム印を押印したものであり、その内容も年始や喪中の挨拶の一般的文章といってよく、特に原告甲野に対する個別的文言を記載したものでないことは明らかである(なお、同番号七のハガキのうち一通(〈書証番号略〉)は、本文は手書きであるが、年賀ハガキに「いろいろありがとうございました」とのみ記された挨拶文にすぎない。)。右各ハガキの外形及び内容から判断しても、各ハガキが第一被疑事実(私文書偽造・同行使)との関連での別紙二の番号一の「革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派、通称中核派)の組織上の指示・連絡、およびこれに関する報告類の文書」にあたると認めることは困難であり、このことは、捜索差押の迅速性の要請を考慮したとしても同様である。また、ハガキが入っていた各ビニール袋(本件第三押収物の番号一〇)については、ハガキが入っていたことから一体のものとして差し押えたと推認されるところ、本件第三押収物中の各ハガキは差し押えるべき物の範囲内にあるものとは認められない以上、右各ビニール袋もまた第一被疑事実との関連性を欠くというほかない。

エ また、本件第三押収物の番号四(茶封筒)については、証拠(〈書証番号略〉、原告甲野本人)によれば、訴外秋野正素から原告甲野に送付されたものであること、右茶封筒の在中物を差し押えていないことが認められる。被告東京都らは、右茶封筒は、別紙二の一の「革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派、通称中核派)の組織上の指示・連絡、およびこれに関する報告類の文書」にあたる旨主張するが、単に住所・氏名のみが記載されているにすぎない右茶封筒は、被告東京都ら主張の右報告文書に該当するとはいい難く、また右茶封筒は別紙二の差し押えるべき物の範囲内にある物件であるとも認め難く、第一被疑事実との関連性を欠くものというべきである。

オ なお、本件第三押収物のうち、番号一(電話番号帳)について、原告甲野が使用する机の上に並んでいた書類の中にあったことが認められる(〈書証番号略〉)ところ、右電話番号帳は原告救援センター内において共用されるものであることが認められ(原告甲野)、原告甲野の所有物ではないうえ、昭和六三年一〇月一四日には還付されているのであるから、これを差し押えられたことにより原告甲野に生じる損害が明らかでないし、また住所録と同様、背後関係を捜査するに当たって必要な証拠と認められるのであるから、右物件を差し押えるべき物件(別紙二の番号三「住所録」)の範囲内にあると判断したことをあながち不合理であったとはいえない。

(2) 本件第二被疑事件について

前認定のとおり本件第四押収物のうち、原告救援センター内の原告甲野が使用する机から差し押えられた物は、番号七ないし一二及び一五である。

そして、右各物件は、いずれも本件第二被疑事実との関連において一応別紙四の差し押えるべき物の範囲内にある物件であると認められる。すなわち、本件第四押収物の番号七の物件は別紙四の二1の「計画・指令…連絡…報告類」の文書」に、同番号八の物件は別紙四の一の中核派の「組織上の主義・主張・方針及びこれらをあおる…原稿」に、同番号九及び一〇の各物件は別紙四の四の「中核派構成員との関係をあきらかにする文書物件」に、同番号一一の物件は別紙四の二1の「計画・指令…連絡…報告類の文書」あるいは同四の「中核派構成員との関係をあきらかにする文書物件」に、同番号一二の物件は別紙四の一の中核派の「組織上の主義・主張・方針及びこれらをあおる機関紙」に、同番号一五の物件は、別紙四の二5「住所録」にそれぞれ該当するものと認められるから、被告小山らにおいて、本件第二被疑事件との関連性があると判断したことが合理性を欠くとはいえない。なお、同番号七の物件について、原告甲野は機関紙「救援」の編集・割付等のために使うメモである旨供述しているが、仮に同原告が供述するとおりであるとしても、被告小山の供述によれば、右メモには数字や計算式等が記載されていたことが認められるのであるから、本件捜索差押時において、右記載がその体裁、外形から編集・割付のメモであると判断することは困難であったことが推認されるのであって、右メモが別紙四の二1の差し押えるべき物の範囲内にあると判断したことには合理性がある。なお、本件第四押収物のうちの同番号一二の機関紙を差押の対象としたことに違法はないことは後記四のとおりである。

なお、その余の各物件については、それらの物に対する差押によって原告甲野に損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。

四請求原因4及び7(被告国の責任)について

本件逮捕状及び本件各捜索差押許可状の各請求が違法と認められないことは前認定のとおりであり、前記三の1(一)、2及び3でみたとおり、本件逮捕状の発布を求める疎明資料としては、松村園江、三澤静江及びたつみ不動産の大野社長の各調書並びに機関紙「前進」に記載された中核派の主義、方針とされる「総インフ化」についての捜査報告書等が添付されていたこと、本件第一被疑事実による各捜索差押許可状を請求する疎明資料としては、右各調書のほか、第一捜索差押許可状(一)については原告甲野が原告救援センターに勤務していることの記載がある捜査報告書が添付されていたこと、本件第二被疑事実による捜索差押許可状を請求する疎明資料としては、本件第二捜索差押許可状(二)に関し、中核派の犯行声明文、事件の発生報告書、実況見分調書、原告の偽名入居の報告書及び右「総インフ化」についての捜査報告書等が添付されていたこと、本件第二捜索差押許可状(一)に関し、右各疎明資料のほか、原告救援センターには中核派が多数出入りしていること及び原告甲野が原告救援センターに勤務していることの記載がある捜査報告書等が添付されていたことに鑑みれば、東京簡易裁判所裁判官において本件各捜索差押許可状及び本件逮捕状を発布したことには違法はないというべきである。原告らは、本件各令状の発布が刑訴法二二二条・一〇五条の趣旨に反し違法であると主張するが、同法一〇五条は秘密事項を記載した信書等一定の物について弁護士等の押収拒絶権を認めたものであって、捜索差押許可状の発布を制約するものでないことは明らかであるから右主張は採用できない。また原告らは、特に本件第一捜索差押許可状の発布に際して「同窓生名簿」(別紙二の番号三)を差し押えるべき物と判断したことをもって違法である旨主張するが、前認定のとおり、本件第一被疑事件には中核派が組織的に関与していたものと推認されること、現に偽名として利用された松村園江と伊藤道子とは大学の同窓生であったことなどを考慮すれば、背後関係を捜査するうえで右同窓生名簿も本件第一被疑事件との関連性及び必要性を否定することはできないというべきであり、また本件第二捜索差押許可状(一)の発布に際して「機関紙・誌」(別紙四の番号一)を差し押えるべき物と判断したことについて、機関紙といっても「革命的共産主義者同盟全国委員会(革共同前進派=中核派)および同派傘下の各団体等の組織上の主義・主張・方針およびこれらをあおる機関紙・誌…」と一応特定され、無制約的な機関紙の差押を認めたものではないこと、本件第二被疑事件が中核派によって敢行されたものであると推認されるところ、右のような「機関紙・誌」には本件第二被疑事件に関連した記事が記載されている可能性を否定できないこと、特定の書店で入手可能であることが直ちにそのような物件に対する差押を禁じるものではないことを考えれば、右「機関紙・誌」を差し押えるべき物と判断したことが違法であるとも認め難いというべきである。

五請求原因8(被告津田、同小山及び同田中の責任)について

公権力の行使に当たる公共団体の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、公共団体がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって、公務員個人はその責を負わないと解するのが相当である(最判昭和三〇年四月一九日民集九巻五号五三四頁、最判昭和五三年一〇月二〇日民集三二巻七号一三六七頁等)。そうすると、被告津田、同小山及び同田中の本件捜索差押及び本件逮捕行為は、公務員としての職務行為であることは明らかであるから、当該行為に関しては、個人として責任を負わないものというべきであって、その余の点について判断するまでもなく原告らの請求は理由がない。

六請求原因9(原告甲野の損害)について

前記三の5(二)ウ及びエのとおり、本件第三押収物のうち、番号二ないし四、六、七、一〇に対する差押は違法であり、右差押によって原告甲野が精神的苦痛を被ったことは否定し難いが、右各物件は、昭和六三年一〇月一四日には、原告甲野に還付されていること、右二、三、五及び六は過去に受領した年賀状や喪中の挨拶状等、同四は封筒そのもの、同一〇は右ハガキ類が入っていたビニール袋に過ぎず、右差押期間中に使用、利用する必要性があったものとは認め難いこと等の諸事情を勘案すると、原告甲野の右損害を慰謝する金額としては二万円が相当である。

第三結論

以上によれば、原告救援センターの本訴請求は、不適法であるからこれを却下することとし、原告甲野の被告東京都に対する本訴請求は、金二万円及びこれに対する不法行為の日である昭和六三年七月二〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度において理由があるからこれを認容し、その余の被告東京都に対する請求並びに被告国、同津田、同小山及び同田中に対する請求は失当であるからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条をそれぞれ適用し、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宗宮英俊 裁判官深見敏正 裁判官野々垣隆樹)

別紙一ないし四〈省略〉

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